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入社初日、初めての友だち PAGE1

last update Last Updated: 2025-04-18 10:31:19

 ――わたしと入江くんが入社した、篠沢商事を中心とした〈篠沢グループ〉の会長さんは、少し変わっている。というか、世間一般でいう「会長さん」のイメージを、見事に覆してくれる。

 世間一般の「会長さん」というと、たいていは社長を退いたおじいさんやおじさまのイメージだと思う。もし女性だったとしても、〝マダム〟という感じの熟年の女性(平たくいえば〝おばさま〟)だったりおばあさんだったり……という感じだろうか。

 でも、我が社の会長さんはひと味もふた味も違う。それはどういうことかというと――。

『新入社員のみなさん、おはようございます。そして、入社おめでとうございます。〈篠沢グループ〉へようこそ! わたしが会長の篠沢(あや)()です。よろしくお願いします』

 いま篠沢商事の大ホールで行われている入社式の壇上で、高級そうなグレーのスーツ姿でお祝いのスピーチをしているのは、わたしたちより間違いなく年下であろう十代くらいの女の子なのだ。

 でも、彼女がこのグループの会長であることは明白である。だって彼女はまだ高校二年生の時に先代会長だったお父さまを亡くされて、後継の会長として就任されたのだから。

 ……というのは、会社案内のパンフレットやホームページに載せられている情報だけれど。

「――可愛い人だなぁ……。わたしよりずっと可愛い」

 絢乃会長のスピーチを聞きながら、わたしは思わず独りごちてしまう。入江くんが聞いていたら「お前、またネガティブになって」と言われそうだけれど、幸いにも男女で席が離れているので彼はすぐ近くには――少なくともさっきのボヤきが聞こえる範囲にはいない。

 身長は百六十センチに少し届かないくらいだろうか。スラリとしているけど出るところはちゃんと出ていてスタイルがいい。

 茶色がかったストレートのロングヘアーはサラサラで、大きなクリッとした目に長い(まつ)()、鼻すじもスッと通っていて、唇はぷっくりしているけど厚すぎず。多分メイクもしているだろうけれど、多分素顔もキレイなんだろうなと思う。

 十代とは思えないくらい大人っぽくて、色気みたいなものもほんのり感じるけれどこれ見よがしに感じない。声もすごく落ち着いていて、耳に心地いい。

 まだ若いのに「会長」としての風格は十分にあって、堂々としていて。逆に、彼女より年上であるはずのわたしの方が幼く見えてしまうかもしれない。

 でも、彼女がそうなるまでにどれだけ大きな悲しみを乗り越えてきたのか、どれだけ努力してきたのかを考えれば、それも納得できた。

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    「わたし自身、このことをあまり大げさにはしたくないんです。せっかくご縁があって入社したこの会社にもご迷惑をかけたくなくて」「矢神さん、そんなのおかしい! 貴女は被害者なんだよ? だったら、『会社に迷惑がかかる』なんて気にしちゃダメ。誰も迷惑だなんて思わないから。ねえ、桐島さん?」 会長はわたしの考えが間違っている、と指摘して下さった。彼女もかつてストーカーの被害者だっただけあって、被害者の方が気にしているのはおかしいとお考えのようだ。「僕も同感です。被害者だからこそ、むしろ周りを頼るべきだよ。君だって、そう考えたから会長に相談しようと思ったんだろう?」「……はい」 わたしは昔から何でも自分ひとりで何とかしようとするクセがあって、入江くんにもよく「ひとりで抱え込むな」と言われる。自分でもいけないことだと分かってはいるのだけれど……。「――ところで矢神さん、その中に、誰か貴女の身を守ってくれそうな人は何人くらいいるの? つまり、ボディーガードをしてくれそうな人っていう意味で」「そうですね……、父と入江くんと、桐島主任……くらいですかね」 父は一人娘であるわたしが狙われている以上、体を張って守ってくれそうだ。でも何か武道をやっているわけではないし、勤め人なのであまりムリは聞いてもらえそうにない。 となると、実質入江くんと主任の二人だけに絞られるけれど……。入江くんにはさっきあんなことを言ってしまった手前、わたしからは「ボディーガードになってほしい」と頼みにくい。「そう、分かった。――桐島さん」「はい?」「貴方にはしばらくの間、矢神さんのボディーガードをやってもらいましょ」「…………はいぃぃ!? ゴホゴホ……」 会長の予想外の提案に、主任が危うく飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになり、ゴホゴホとむせた。そしてわたしも目を丸くした。「主任に……わたしのボディーガードを? えっ、ちょっと待って下さい! それってどういうことですか?」「…………あの、どうして僕が? 矢神さんには多分、入江くんの方がいいと思うんですが」「貴方、矢神さんと住んでるところ近いでしょ? 何かあった時、すぐに飛んでいけるからいいと思うんだけど」「…………」 会長のお言葉に沈黙したのは、主任ではなくわたしだった。昨日、電話で「近くに住んでいないのがもどかしい」と入江くん

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